みなさんこんにちは、弁護士の杉山です。
自己破産をして、免責許可決定を受けることができれば、基本的にはすべての借金について支払う責任が免除されて、借金の額は実質ゼロになります。
しかし、すべての借金ではなく、すべての債権という意味ならば、少し違います。
実は自己破産して、免責許可決定を受けても、その後も残ってしまう債権があります。
そこで今回は「自己破産しても残ってしまう債権」について、わかりやすく解説していきます。
自己破産は全ての債権がゼロになると勘違いしていた方、自己破産を考えているけど、自分は大丈夫か心配になった方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
破産制度と免責について

最初に、破産制度について、かんたんに解説していきます。破産制度とは、破産法という法律で規定されている、債務者の財産を清算する制度です。
債務者が、経済的に困窮してしまい、立ちゆかなくなった場合に、放っておくと、強い債権者、素早い債権者だけが、取立てを行ってしまうということになりがちです。つまり、早い者勝ち、ということです。
しかし、こうしたことを放置しておいた場合、債務者が経済的に困窮すると、多くの債権者が、我先に強引な取立てをし、混乱した事態を招きます。また、このような状態は不公平でもあります。
そこで、債務者が経済的に立ちゆかない状態になった場合に、裁判所が間に入り、債務者の管理、換価して、債権者に不十分ながらも公平な分配をしようというのが、本来の破産という制度です。
その意味では、破産制度は、もともとは債権者のための制度だと言えます。
破産をすることができる対象には、法人と個人とがありますが、法人、たとえば、株式会社などが破産した場合、裁判所から選任された破産管財人が会社の全ての財産を換金して、債権者に分配します。
しかし、こうしてすべてのお金を分配してしまったら、会社は消滅します。返済されずに残ってしまった債権があったとしても、債権者は諦めるほかありません。
すべてを無くして抜け殻となった後、会社は消滅してしまうからです。しかし、個人が破産する場合は、少し異なります。
個人は、破産手続が終了しても、消滅することはないからです。
そこで、破産した人の財産を換金して、債権者に分配しても、それでも残ってしまった債権がある場合、本来であれば、破産手続が終了した後も、債権者は債務者に対して請求することできます。
しかし、これでは、破産者は、いつまで経っても莫大な借金に苦しめられ続けることになります。
そのため、法は個人の破産について、「免責」という制度を導入し、破産してしまった債務者について債務を支払う責任を免除して、経済的に再起する機会を保障したのです。
そして、現在では、個人破産の場合、この免責を得たいという理由で、債務者が自分から破産をしたいと申し出る場合が圧倒的多数です。
そして、このように債務者が自分から破産を申し立てる場合を「自己破産」と言います。
自己破産申立した後の免責手続き

自己破産の申立てをした場合、破産法は、同時に債務者が免責許可決定の申立てをしたものとみなします。
手続的には、破産手続きに引き続いて、そのまま免責の手続きに入ります。ここでは、裁判官が債務者つまり破産者に、免責を許可するかどうかを審理して決めます。
しかし、原則的には免責することになっており、例外的に、「免責不許可事由」という問題のある事情がある場合には、許可されないことがあります。
そして、免責不許可になってしまえば、借金はゼロにはなりません。債務者は、免責の効果を受けることができず、その後も、残った借金の支払いをし続けなければなりません。
すると、どのような事由が「免責不許可事由」なのか、ということが気になる方もいらっしゃるでしょう。しかしそれは、今回のテーマから外れますので、ここでは省略します。
今回のテーマは、こうして、運良く「免責許可決定」を受けることができたとしても、免責されない債権がある、ということについてです。
破産法は、免責許可決定の効力として、「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる」と規定しています。
ところが、この条文には、「ただし書き」があり、「ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない」として例外を定めています。
この例外にあたるのが、「非免責債権」と呼ばれるものです。
7つの非免責債権

この「非免責債権」として、破産法は1号から7号までの7つを規定しています。
それぞれ詳しく解説していきます。
【1号】租税等の請求権
1号は「租税等の請求権」です。
住民税や固定資産税、自動車税などの税金や、健康保険料、年金保険料などです。
なぜ、税金などが非免責債権とされているかと言うと、「国庫収入を確保する財政上の理由による」と言われています。言ってみれば、債権者が国や地方公共団体だからです。
【2号】悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
2号は「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」です。
これは、人道的・道徳的な理由から責任を免れない、と言われています。
「不法行為は、故意または過失によって他人の権利などを侵害して、他人に損害を被らせた場合には、加害者は被害者の損害を賠償しなければならない」とする民法上の制度です。
不法行為は、故意による場合と過失による場合があり、たとえば、自動車事故などの場合には、普通は過失による不法行為です。
よく世間で話題となる不倫は、配偶者との関係では不法行為になるとされていますが、これは、過失ではなく故意によるものと言えます。いろいろな意味で。
ただ、ここで非免責債権となるのは、故意による不法行為ではなく、悪意による不法行為です。
故意であることは前提となりますが、故意による不法行為のすべてがこれに当たるのではなく、他人を害する積極的な意欲があった場合であることが必要である、と言われます。
どんな場合がこれに当たるかというと、窃盗や詐欺、恐喝などの犯罪による場合が典型です。
窃盗や詐欺などの犯罪によって財産を奪われた場合、もちろんその物自体の返還も請求できますが、その物自体の回復ができない場合や、お金を奪われたような場合には、損害賠償請求ができます。
そのような被害者の犯人に対する損害賠償請求権は、まさにこの非免責債権に当たります。
既婚者が不倫をした場合の配偶者に対する不法行為はどうか、というのは、みなさんの中にはとても気になる人もいるかもしれませんが、非免責債権となるかは微妙です。
配偶者を害する積極的な意図がなければ、「故意」ではあっても「悪意」とは言えないかもしれません。
【3号】故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
3号は、「故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」です。
これも、2号と同様に、人道的・道徳的な理由もありますが、2号の場合以上に、遺族や被害者の保護の必要性が大きな理由となっています。
債務者も可哀想かもしれないが、被害者のほうがもっと可哀想だ、というわけです。この場合、被害者の被害の対象は「生命」や「身体」に限られています。
また、不法行為は「悪意」には限定されず、「故意」の場合「重過失」の場合が含まれます。
ただ「軽過失」の場合は含まれません。重過失、軽過失というのは、過失の分類です。
過失というのは、注意すべき義務に違反したために被害を生じさせてしまった場合ですが、この注意義務違反の程度が特に著しい場合が「重過失」で、ふつうの場合は「軽過失」です。
交通事故の場合であれば、ふつうのよくある事故であれば、「軽過失」とされる場合が多いでしょう。
【4号】家族や親族関係に基づく義務
4号は、「家族や親族関係に基づく義務」です。
夫婦間の協力・扶助義務、婚姻費用の分担義務、子どもの養育費、親族に対する扶養義務などです。
これも、これらの家族や親族の保護の必要性を理由とするものです。
【5号】雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権・預り金返還請求権
5号は「雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権・預り金返還請求権」です。
従業員の給料や退職金、また、従業員が雇い主に預けていたお金などです。
「おれ、破産したからゴメンね」と雇い主に言われて、そのままにされてしまったら、従業員のほうがよっぽど可哀想です。
そのため、このような労働者保護の観点から非免責債権とされています。
【6号】破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
6号は、「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」です。
これは、他のものとはちょっと毛色の違う理由です。破産の申立てをする場合には、債権者名簿という書類を作成して、提出します。
そして、この債権者名簿に記載された債権者には、きちんと通知が行き、破産手続への参加の機会が保障されます。
逆に言えば、債権者名簿への記載から漏れてしまった債権者は、通知などが来ないため、債務者について破産手続が進んでいることもわからず、不利益を受けることがあります。
もちろん、債務者も、ついうっかり書き漏らしてしまったということもあるでしょうが、もしわざとある債権者を債権者名簿に記載しなかったら、それは酷いことと言えるでしょう。
そこで、これに対するペナルティとして、「債権者が知りながら債権者名簿に記載しなかった」という場合には、非免責債権としたわけです。
ただし、その債務者について破産手続が開始されたことをその債権者が知っていた場合は、実害はないので、例外とされています。
【7号】罰金等の請求権
7号は「罰金等の請求権」です。
「罰金」は、犯罪に対して科せられる刑罰の1つです。罰金のほか、科料や追徴金、刑事訴訟費用、また、行政罰としての過料もこれに含まれるとされます。
これらが非免責債権とされているのは、やはり道徳的な理由によるものだとされます。
悪いことをして、罰金刑を科せられたのに、免責されたからそれでチャラになるということは、やはり認めがたいということでしょう。
免責許可決定後に非免責債権の請求をされた時の対処法

最後に、自己破産して免責許可決定をもらったが、その後、非免責債権の請求をされたときの対処法について解説していきます。
率直に言えば、特効薬的な対処法はありません。
ただ、最終的に、最後まで支払いをするという前提のもと、支払い方法について相談できる余地があるものもあります。
たとえば、滞納した税金などの支払いが厳しいのであれば、税務署や自治体、年金事務所などの管轄窓口へ早めに相談するという方法もあります。
また、損害賠償や、未払いの婚姻費用や養育費、また、従業員の給料などについては、相手と交渉したり、場合によっては調停を起こすなどして、支払い方法について検討してもらうという余地もあります。
また、このようなある程度の支払い義務が残るとしても、大部分の借金については支払いの責任を免れているわけですから、これくらいは頑張らなければならない、と覚悟を決めるべきです。
もしも自己破産の申立てをするもっと前の時点での対処法を考えるならば、このような非免責債権となる債権については、日頃からため込まず、積極的に弁済するように努めたほうがよいと言えるでしょう。
たとえば、零細企業を経営している方の中には、自分自身が借金をして会社に資金を注ぎ込み、そして最終的にどうにもならなくなって破産、となる方もいらっしゃいます。
しかし会社のためにした借金は、自分が破産すれば免責によって消えますが、会社の資金を優先したために滞納してしまった個人の税金は、免責を受けても消えません。
会社自身が滞納していた税金は、会社が破産して、消滅すれば、消滅し、経営者であっても、個人にはその税金の支払い義務はありませんが、個人が負っていた税金は、破産して免責されても消えず、支払い義務は残り続けます。
こうしたことを頭の片隅において、税金や養育費などは、日頃からため込まないようにしておく、というのが賢明かもしれませんね。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、破産法が規定している非免責債権について解説しました。
非免責債権が破産手続後に残ってしまった場合、交渉や調停などにより債権者と話し合うことで、
支払い方法を考慮してもらう余地はありますが、最終的には支払うしかなく、これを免れる方法や対処法はありませんでした。
したがって、非免責債権については、日頃から意識して弁済し、ため込まないようにしましょう!
本記事の内容が、少しでもお役に立っていれば幸いです。



